施設データ 2017年

部門紹介

神経集中治療

 救命救急センターには,意識障害や半身の麻痺,けいれんなど,脳神経の異常をきたしたために救急車で搬送される方が数多くいらっしゃいます.その原因は,脳卒中や頭部外傷だけではなく,実にさまざまです.図1は2009年に三島救命救急センターに入院された982人の患者さんの診断名を示したものです.頭部外傷が13%で最も多いのですが,次いで心停止蘇生後に意識障害を呈する方が8%,脳内出血が8%,脳梗塞が7%,くも膜下出血が5%,急性中毒が4%,等で,全体の過半数が何らかの脳神経の異常をきたしています.脳神経に異常をきたした方々を救命するだけではなく,後遺症なく,あるいは少しでも軽い後遺症で退院/転院していただくためには,手術の有無にかかわらず,中枢神経(脳と脊髄)に重きを置いた集中治療が欠かせません.
 当センターではこの「神経集中治療(Neurocritical Care)」を精力的に行っています.神経集中治療は,集中治療の中で最も新しい分野ですが,死亡率の低下や転帰良好率の増加など,世界各国からその効果が相次いで報告されています.
 神経集中治療では,脳神経の状態を的確に評価するとともに,少しでも脳のダメージが軽くなるように全身管理を行う必要があります(脳指向型集中治療と言い換えることもできます).このためには,各分野の専門医のみならず,看護スタッフ,薬剤師,臨床検査技師,臨床工学技士,リハビリテーションスタッフなど,多職種の連携が欠かせません.単独型救命センターである当センターでは

検査

 脳神経の評価:神経学的診断が基本ですが,昏睡状態や薬物による全身麻酔や鎮静を要するために神経学的診断が困難な場合が少なくありません.このような場合,脳の状態を知るためには,さまざまなモニタリングが必要です.当センターでは,必要に応じて,脳圧(頭蓋内圧),脳波(amplitude-integrated EEGなどの持続脳波を含む)(図2),瞳孔計による瞳孔反応の評価(図3),経頭蓋ドップラー検査,などの脳機能のモニタリングを行っています.また,必要に応じて遅れることなくCTやMRI,MRAなどの画像検査を行うことがきわめて重要です.

治療

 先に述べたとおり,脳神経の保護を念頭に全身管理を行います.当センターでは1995年,重症頭部外傷の方に初めて脳低温療法(最近では体温管理療法として目標体温を明記することが推奨されています.ここでは脳保護の意味からあえて脳低温療法としています)を実施し,その後,現在までに650人を超える昏睡患者の方々に脳低温療法を実施してきました.脳低温療法は,心停止蘇生後に対しては有効性が示され,標準的療法となっています.重症頭部外傷に対しては,比較的若い人(50歳以下)で血腫除去を要する場合,早期に開始すれば有効であると報告されています.くも膜下出血では積極的な体温管理が良好な転帰に関連することが示されています.高体温が中枢神経の多くの疾病や外傷に有害であることが明らかにされているいるので,低体温にしないまでも,積極的な常温の体温管理が望まれます.このためには,シバリング(全身の筋肉の小刻みなふるえにより熱を産生する反応)の管理など,きめ細やかな神経集中治療が欠かせません. 図4は血管内冷却システムを用いた常温管理の様子です.

教育

 心停止にICLS (米国ではACLS),外傷にJATEC(米国ではATLS)があるように,意識障害をはじめとする脳神経の異常に対してはENLS(Emergency Neurological Life Support)があります.ENLSは米国Neurocritical Care Societyが開発したもので,2016年11月20日,日本救急医学会総会の翌日,日本語のコースが初めて開催されました.当センターはENLSの日本語訳と日本でのコース開催に深く関わってきました.また,日本の神経集中治療のハンズオンコースや,神経集中治療に関連したガイドラインの策定や調査に関わっています.

共同研究・登録事業

 日本国内や米国と共同で以下の共同研究や登録事業を行ってきました.
• Emergency Coma Scaleの検証
• 咽頭冷却の安全性の検討
• B-HYPO (Brain Hypothermia:脳低温療法)研究
• HOPES (HypOthermia for Patients requiring Evacuation of Subdural Hematoma: 血腫除去を要する急性硬膜下血腫患者に対する低体温療法)研究
• PRINCE (The Point Prevalence Study in Neurocritical Care: 神経集中治療における時点有病数)研究(米国Neurocritical Care Society)
• JNTDB(日本頭部外傷データバンク)
• クモ膜下出血急性期患者の WFNS grading 再評価に関する前方視的多施設共同研究


当センターには海外から多くの先生が神経集中治療の見学にこられています.
施設見学に来られた方々
• Stephan Mayer 先生(米国 Columbia大学) 2010年7月5日
• Sachin Agarwal 先生(米国 Columbia大学) 2014年3月4日
• Julian Boesel先生(ドイツ Heidelberg大学)2016年11月4日
• Jo Ann Soliven先生(フィリピン The Medical City)2017年9月20日
• Peter Kung先生(台湾 高雄大学)2018年1月31日
短期留学に来られた方々
• Jen Del Mundo 先生(フィリピン The Ateneo School of Medicine and Public Health) 2017年 6月 1−9日
• Debbie Noblezada-Uy 先生(フィリピン The Medical City)2018年2月5日−28日
• Gemma Sarapuddin 先生(フィリピン The Medical City)2017年6月1 日−2018年5月31日


当センターは神経集中治療に関連する次の学会を主催(予定を含む)しました
• 第13回日本脳低温療法学会(2010年7月2−3日)
• 第31回脳死・脳蘇生学会学術集会(2018年6月23−24日)
• 第33回日本神経救急学会学術集会(2019年6月8−9日予定)


参考に,神経集中治療関連論文(当センターが関わったもの,すべて記載のURLからダウンロード可能です)を掲げます.
• 脳卒中診療におけるneurocritical careへの期待—新たなるシステム確立に向けて—.日本集中治療医学会雑誌 2012 年 19 巻 3 号 p. 325-330.https://doi.org/10.3918/jsicm.19.325
• 救命救急センターにおける神経救急─ピットフォールに陥らないために─.日本神経救急学会雑誌 2012 年 24 巻 3 号 p. 61-70.https://doi.org/10.11170/jjcne.24.3_61
• 神経集中治療における脳低温療法の意義─当施設における治療経験をもとに─.日本神経救急学会雑誌 2013 年 25 巻 2 号 p. 7-13. https://doi.org/10.11170/jjcne.25.2_7
• 急性期脳動脈瘤診断において三次元CTアンギオグラフィーは脳血管撮影より安全に施行可能か? 日本神経救急学会雑誌 2014 年 26 巻 2 号 p. 20-26.https://doi.org/10.11170/jjcne.26.2_20
• 脳神経モニタリングとしての定量的瞳孔計の導入.日本集中治療医学会雑誌 2015 年 22 巻 3 号 p. 221-222.https://doi.org/10.3918/jsicm.22.221
• 神経集中治療におけるamplitude-integrated EEGの効用.日本神経救急学会雑誌 2015 年 27 巻 3 号 p. 35-41.https://doi.org/10.11170/jjcne.27.3_35
• Emergency Neurological Life Support(ENLS)の概要;神経救急傷病に対し最初の1時間に何をすべきか? 日本神経救急医学会雑誌2016 年 28 巻 3 号 p. 1-5.https://doi.org/10.11170/jjcne.28.3_1
• 重症くも膜下出血患者に対する血管内冷却カテーテルによる体温管理の可能性と安全性について─低体療法から復温後の常温管理に関する初期経験─.脳卒中の外科 2017 年 45 巻 6 号 p. 445-450.https://doi.org/10.2335/scs.45.445
• JRC 蘇生ガイドライン2015 成人の二次救命処置:心拍再開後の集中治療,予後評価.日本集中治療医学会雑誌2017年24巻2号151-83.https://doi.org/10.3918/jsicm.24_151
• 救命救急センターおよび日本集中治療医学会専門医研修認定施設における中枢神経モニタリングに関するアンケート調査.日本集中治療医学会雑誌2018年25巻1号53-62.https://doi.org/10.3918/jsicm.25_53