大阪府三島救急医療センター 072-683-9911

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地域ER化構想のために 

プレホスピタルケアとメディカルコントロール充実への努力

森田 大 救命名誉所長

 1.はじめに
 平成13年度に厚生労働省が5カ年計画で重点施策を出してきた。これはメディカル・フロンティア戦略と称され、とくに期待される効果の一つとして、心筋梗塞、脳卒中による死亡率を年間5万人以上減らすことを謳っている。どの段階で、どのような方法で減らすのか明らかでないが、近年のCCUやSCUの整備充実に伴い心筋梗塞や脳卒中は発症初期の段階で、運良く専門病院あるいは三次救急病院へ収容されれば、日本の医療レベルから見るかぎり病院における院内死亡率は極めて低い。これ以上の改善は不可能といわれている。そうすれば、死亡率を下げるためには地域全体の死亡率に眼を向けなければならない。必然的に病院前の諸問題にターゲットを当てることになる。それには、一般初診医が患者の急性徴候から早期に適切に診断を下し、適切な病院を紹介したり、救急を担う医療従事者が病院前救護の質の向上を推し進め、病院に辿り着くまでに急変した患者の蘇生率を上げることが、地域における急性期死亡率を下げることの一翼を担う。
 他方、平成12年5月には病院前救護体制のあり方に関する検討会の報告書で、病院前救護においてメディカルコントロールは、傷病者の救命率の向上や合併症の発生率の低下等の予後の向上を目的として、救急救命士を含めた救急隊員の質を確保するものであることから、地域の病院前救護体制の充実のための必須条件である、と述べている。

 以上を踏まえ、今後地域でどのような救急体制を組むことが望まれるか考察したい。


2.疾病救急からみた現行の救急医療システムの問題点

 1960年代に急増した交通事故による被害者を救命するために、外傷救急を中心として救急医療システムが構築され発展してきた。その発展途上において、医療行政上の分類として救急病院の機能別分類が行われた。それは、初期救急病院、二次救急病院、三次救急病院である。初期、二次の後方支援としての三次救急病院では病院毎に地域を管轄する消防署、地域医師会との間で搬入基準が取り決められ、救急隊はその基準に従い患者の搬送を行うことができた。大阪においては、多くの三次救急病院が外傷救急・災害救急を中心に機能し社会的にも了解されていた。一方、急病による救急患者は、救急隊員がバイタルサインを観察し、それに基づいて一部は三次または専門病院へ収容されるものの、多くは近くの初期または二次救急病院への搬送であった。救急隊員による病院選択の際に、標準的な選択基準はなく、たとえあっても生理的指標が重症あるいは重症になってからの三次搬送である。これでは、助かるものも助からない結果を招くことになりかねない。また、二次救急病院の十分な医療情報が開示されていないのが現状であるため、収容されても再度病院間転送・転院となる場合が少なくない。

 すなわち、患者の状態を観察して病院を選択するのは、現場での医師の判断ではなく、病院情報の少ない環境下での救急隊員の判断であったわけである。たとえ入院しても、そこには専門医が不在であったり、治療して重症になった場合には、三次救急病院へ再転送されることになる。つまり、初期から二次へ、二次から三次へと順次に患者は病院を移り変わるのである。この救急医療システムは、時間の浪費、医療費の無駄遣いとなり、心筋梗塞や脳卒中の初期診断や初期治療に有効に機能しないことは明白である。救急医療に対する国民の高度医療へのニーズが高まりつつある現状では、医療側の論理で機能する現救急医療への不信感が生じてくるのは当然といえる。

 近年、交通事故による外傷患者は漸次減少傾向にあるものの、高齢化社会に伴い疾病救急患者が多くを占めるようになってきた。急病、とくにくも膜下出血、急性心筋梗塞症、大動脈疾患は、バイタルサインが安定していても急変しやすく、急変時の救命率は悪く、緊急性とともに不測性があるのが特徴である。心筋梗塞症や脳卒中は発症早期の適切な治療が重要であるといわれている。これについては、欧米から発表された「心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2000」でも明確に述べられている。わが国において、くも膜下出血患者における再破裂の26%が初期、二次救急病院内ならびに病院間転送時に発生している。急性心筋梗塞患者の二次救急病院での急性期死亡率は、三次救急や専門病院での急性期死亡率の約3倍である。発症から三次収容までの時間をみても救急隊直送にくらべ病院間転送の場合には約4倍を要している。そのため心筋梗塞でショックに陥った患者の死亡率は転送患者ほど高い。また、腹部大動脈瘤破裂で心停止して紹介された患者の多くは初期、二次救急病院での初期診断の誤りが原因となっている。急病の患者は現救急体制の犠牲になる可能性を孕んでいるといっても過言ではない。

 わが国の現行救急医療システムは、近年増加傾向にある急病患者に対して適切に組み込まれていないのが明らかである。

3.院外心停止患者の蘇生率からみた問題点
  (国際基準を用いた高槻市・島本町の成績)

 病院外心停止の原因の約半数は心臓疾患が占める。単独疾患としては急性心筋梗塞が最も割合が高く、急性期死亡の時期は発症1時間以内の病院前到着前に起きやすいことが判明している。北摂地域における心筋梗塞症患者の急性期死亡率は入院可能となった場合の死亡率も含め26%であった。このうち、54%は病院に辿り着くまでに急死しているのである。

 その国の救急医療システムを科学的に評価する方法の一つに、病院に辿り着くまでに心停止した患者の蘇生率を調査する方法がある。この調査に、1991年に国際基準となっているウツタイン様式を用いて国際間、あるいは地域間での比較を行うことにより、その地域の救急医療システムの問題点を浮き彫りにすることが可能となる。

 高槻市・島本町(居住人口約39万人)では、いろいろな原因で毎年平均140人余が病院に辿り着くまでに心停止している。1996年から5年間の臨床疫学調査では、心停止の原因が心原性であり、倒れるところを一般市民に目撃された患者に限ると、1年生存率は3.4%であった。わが国では最も成績の良いとされる船橋市の初期成績である1年生存率6.9%、現場へ出場する医師、救命士が共通の標準的蘇生手順(ACLSコース)をマスターした後のデータである後期成績の1年生存率12.6%と比較すると、低率であった。これは高槻市と比べ病院前救護体制の違いによるところが大きい。

4.救急医療システムをどのように再構築すれば蘇生率が
  向上するのか

 これからの救急医療には、病院収容までの医療の質を保証する観点から、医療者の救急現場への同時出動などがシステム化されなければならない。三次救急病院がその中核になるべきであるが、おのずとマンパワーに限度があるため、勤務医を含め地域医師会員の病院前救急医療への参画が不可欠である。現実には船橋市立医療センター救命救急センター方式、すなわち救急医と医師会員協力のもとに標準化した蘇生プロトコルを用い実践されている病院前救護体制がもっとも充実し、良好な成績をあげているモデルともいえる。

 高槻市住民に対する救急医療の質を確保し安心して暮らして行くためにも、地域ER化構想として、救命救急センターに救急ステーションを設置し、ここに高規格救急車を配備し救急救命士とともに救急医が同乗しながら、消防指令室からの出場指令を受け現場へ管轄署救急車と同時出場する方策を提案する。これは総務庁からの指示である救急救命士の生涯教育(メディカルコントロール)の一環としても機能することになる。