大阪府三島救急医療センター 072-683-9911

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高齢者が入浴するに当たっての注意

森田 大 救命名誉所長

 日本人は、風呂の好きな国民といわれます。しかも熱めのお湯を好む人が多いようです。いまの寒い季節、お風呂で冷えた体をゆっくり温めるのは、一日の疲れを癒し心身をリフレッシュするのに最高の方法です。普段何気なく入浴していますが、浴槽内でいき絶えた状態で発見されることがあり、その原因が心臓や脳の血管の病気と大きく関わりがあると考えられています。とくに、高齢者の場合にはちょっとした注意が必要です。

自宅における入浴中突然死の実態

 病院以外の場所で突然死し、まだ蘇生の余地があるとして救急病院へ搬送された人の悉皆調査が1998年5月から人口880万人の大阪府で行われています。その初期3年間のデータから自宅での溺死者を拾って見ました。平均すると年間に122人です。70歳以上の高齢者が約8割を占め(図1)、70歳以上では10万人あたり年間28人が溺死しています。夜の時間帯に集中するのは当然でしょう(図2)。1年を通して見ますと大阪の平均気温と反比例し、寒い時期に多く発生しています(図3)。入浴にいつもより時間がかかっていたり、浴室が静かなため不審に思い風呂場を覗くと湯船に顔を沈めていたというように、97%の人で発見が遅れいつ心臓が止まったのか分からないのです。救急病院へ収容されても、はたして生存退院できるのでしょうか。残念ながら、いろいろ手を尽くし救命処置を施しても、3歳までの数例を除き、発見が遅いために生存者はありませんでした。別の報告では、42℃以上の高めのお湯に浸かっていた人がほとんどであったとしています。この結果から、寒い季節の夜にとくに持病のある高齢者を一人で熱いお湯に入浴させるのは、非常に危険であることが分かります。

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入浴中の死亡の原因は何か

 1994年の東京都監察医務院の調査では、入浴中に突然死した564人のうち464人(82%)は心筋梗塞や脳卒中、動脈瘤破裂など高血圧や動脈硬化に起因する急病による死亡でした。また、他の資料によれば91%が心臓疾患と脳出血で、その比率は3.4対1と入浴中の心臓死が圧倒的に多いのです。この中には軽い脳卒中発作や心臓発作がおこり、助けを求めようとして脳循環不全による一時的なめまいや湯のぼせのためにバランスを崩し、湯船に沈んでしまったと思われる人もいるのです。つまり入浴中の事故の多くは、高血圧や動脈硬化にともなう体の変化がその時に悪化または心臓、脳、血管に悪影響を及ぼすものと考えられます。それでは入浴により血圧がどのように変化するのでしょうか。



入浴時の血圧の変化

 寒い季節における事故が多いのが特徴ですが、2つの要因が考えられます。一つは脱衣室や浴室の寒さと血圧変動に関係があると考えられており、浴室の室温とお湯の温度との温度差が大きいと寒冷ストレスに曝され易く、血圧や脈拍数が上昇し心血管系臓器に負担を与えます。二つ目は湯温が41℃以下の場合の血圧変動と様態が異なり、もし42℃以上の熱めのお湯に入った場合には、入浴後1~2分で血管が収縮して血圧は急上昇します。冷えた体で入浴しますと温度差が大きく、特に高齢者では、収縮期血圧(上の血圧)で、平均30mmHgくらい上昇するようです。ここで動脈硬化や高血圧の人などにとって危険なのは、お湯に入った直後、急激に血圧が上昇するために、血管が破れて脳出血をおこしたり、心臓に負担がかかり心臓発作をきたす場合があります。さらに入浴を続けますと、体が温まるにつれ血管が拡張して心臓の拍動や呼吸が速くなり、約5分後には今度は徐々に血圧は下がってきます。血圧が下がるとめまいをおこしたり、入浴によって大量に汗をかくため口渇を覚えることがあるかと思いますが、血液中の水分が減って血液の粘り気が増し、動脈硬化で内腔が狭くなった血管は詰まりやすくなり脳梗塞や心筋梗塞の危険性が出てきます。



入浴時の事故を防止するために

 入浴時の急激な血圧の変動を避けるための方法が、結果的に入浴時の事故を予防するための方法となります。すなわち、お湯の温度は41℃以下にする、事前に脱衣室や浴室の温度を24~26℃程度に高くしておく、入浴時間は10分以内とする、体調が思わしくないときは入浴を控えるなどが重要です。

熱いお湯で長湯を好む人では血圧の変化率が著しいことや発汗による脱水のため、湯のぼせや湯あたりが生じることも事故に至るおおきな要因と考えられます。とくに高血圧、心臓疾患のある人や高齢者は一番風呂を避け、肩までどっぷり浸かるよりも半身浴がよいでしょう。38~39℃のぬるめのお湯にみぞおちまでつかり、うっすら汗ばんでくるまでじっくり温まる入浴方法です。上半身がお湯から出ているため、肩にタオルをかけたり浴室の温度を暖かく保つことが大切です。汗をかきますので、水、白湯、番茶などコップ1杯程度の水分補給も忘れずにおこなってください。高齢者には二番湯に入ってもらい、入浴中は家人がこまめに声をかける気くばりも必要です。



事故を発見した場合には

 予防策を講じても不幸にも入浴中に病気が悪化することはあり得ます。もし、見つけた場合の対処法を説明しましょう。もちろん息をしていないような場合は人工呼吸と心臓マッサージを始めねばなりませんが、まず湯船から出すことが必要です。よほど力がない限り意識のない裸の濡れた人を担ぎ上げることは困難です。先に119番通報するとともに人手を集めます。しかしその間顔だけは水から出るようにして下さい。まずは湯船のふたを利用します。顔を上げ、湯船のふたを顎の下に入れて顔を水から出した状態に維持します。それが出来ない場合は湯船の栓を抜いて水を減らし、顔を水から出した状態にしてください。そうしておいて何とか人を集め、湯船から引き出し、仰向けに寝かせます。水を吐き出させる必要はありません。まず、頭部後屈あご先挙上して空気の通り道をつくります。これで呼吸がなければ、人工呼吸を始めます。4秒かけて横目で胸が上下するのをみながらゆっくり2回呼気を吹き込んでみてください。これで体の動きがなければ、心臓が止まっている証拠ですので、左右の乳房を挟む胸板の真中部分に手のひらの根元を押し当て、1分間に100回のスピードで心臓マッサージを始めます。15回心臓マッサージするごとにゆっくり2回呼気を吹き込んでください。15対2を4サイクルおこなうと約1分です。大阪では平均6分で救急隊が到着しますので、到着するまでこれを繰り返し続けることが重要です。

 このような最悪の事態に至らなくとも、急病が起こった場合には、はやく浴槽からあがり、湯冷めしないように横になりながら救急車の到着を待ちます。心臓発作により、ニトロなどを服用する場合は、必ず浴槽から出て横になりながら舌下または口腔内に噴霧し、そのまま静かに寝ていて下さい。意識がなくなり、えずく様子があれば吐物が口から吐きやすく肺に入らないように、体を横にして寝かせましょう。

以上の注意を守っていただくことで、命と引き換えの入浴は避けたいものです。

        (大阪市防火管理協会機関紙「そなえ」から転載)

図の説明

図1 自宅での入浴中突然死の年齢別発生率

 (大阪府における1998年5月から2001年4月までの3年間の平均値)

   70歳以上が約8割を占める。

図2 自宅での入浴中突然死の時刻別発生率

 (大阪府における1998年5月から2001年4月までの3年間の平均値)

   夜間帯の発生が多い。

図3 自宅での入浴中突然死の月別発生率と大阪府の月別平均気温

(大阪府における1998年5月から2001年4月までの3年間の平均値、平均気温は国立天文台編の理科年表を引用)

   入浴中の突然死は平均気温に反比例する。