大阪府三島救急医療センター 072-683-9911

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循環器疾患救急体制のモデル提言 

厚生省循環器病研究委託事業9指-2公開シンポジウム講演集から抜粋

森田 大 救命名誉所長

 三島救命救急センターの森田でございます。私に与えられましたテーマは「循環器疾患救急体制のモデル提言」ですが、私は14年間第一線の第三次医療施設におきまして救急の現場に従事しておりましたので、その経験と若干のデータを交えてお話させて頂きたいと思います。三島救命救急センターは大阪府の北部にございますのでデータには地域的なかたよりがあるかもわかりません。その辺の所はお含みいただきたいと思います。

 最近のニュースからいくつかを拾ってみました。これは一昨年12月に起こりました悲しい事件でございますが、「5病院断わり男性死亡。心筋梗塞、救急車で搬送」とあります。次は循環器と特別関係はございませんが、小児科救急の領域で「深夜の病院、たらい回し」とあります。こういう事件が後をたたないのはなぜでしょうか。日本は文明国、先進国でありながらなぜこんな問題が起こるのか、どこに救急医療体制上の問題があるのだろうか、という問いかけがもっともっと社会から出て欲しいと思いますが、こういう問題提起は出て来ません。それなら、現場にいる医者が問題提起をしないとなんら解決にならないのではないかと思いました。どこに問題があるのだろうかということを私なりにいろいろ考えてみる機会が幸いに今回の厚生省の研究班より与えられましたので少し考察してみました。これは現行の救急医療システムの概念図です。(図A)

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現行の救急医療システムは初期、二次、三次というふうに順次に高次の救急医療施設へ運ぶというシステムになっております。最近少し変わりましたので、それは後ほど厚生省の土居先生からご説明があるかもしれません。傷病者が発生致しますと、救急隊が要請されます。そして、病院へ運ばなければいけないのですが、こういう時に搬送病院を選択するのは救急隊員なんです。そこに医師の判断や指示が入りません。いわゆるメディカルコントロールがないのです。過誤の発生する危険性があり、このシステムには大きな問題があるのです。二次救急病院へ連絡をとっても門前払いされることがあります。二次救急病院へ入院することができたが、専門医がいない。夜間であれば多分アルバイト目的のお医者さんがおられるでしょうが、診断治療能力に問題があったりして重症化する。あまり新聞に出ないだけでそういう事がいくらでもあるんです。そして三次救急施設へ送ろうとするが、満床であるかもしれない。あるいは、それは三次の対象外だから他の二次を当たって下さいと言われるかもしれない。しかし、診察もしないで誰が三次対象外の傷病者であると解るんですか? あきらかに軽症の場合を除いて傷病者の初期の重症度は診察しなきゃ解らないんですよ。救急隊員の判断、救急病院の医師への連絡だけで判断できるのでしょうか。それを問いたい。やはりこういうシステムの中に、不測性のある疾病を軽くみたり、「たらい回し」が発生する危険性を孕んでいるんではないだろうか、という事をよく考えないといけないと思います。

 一方、病院外で心肺停止(CPA)に陥った患者のプレホスピタルケアでは、救急救命士制度という良い制度が出来たにも関わらず、電気ショックをかけたり点滴をしたり、それから器具を用いての気道確保?空気の通り道をしっかり開けてあげる?などの特定行為は医者の指示を待ってからでないとやれない。真夜中病院事務を通して医者を探す場合には、なかなか電話に出ない事もある。医者の指示を待っているのに時間がかかってしまい、電気ショックを掛けるタイミングを逸する事もある。それから除細動器を現場つまり患者さんのそばへ持っていけない場合もあるんです。搬送するとなるとどこの病院へ運ぼうか、そこでも救急隊員が非常に悩む。大阪府の場合、三次救急へ来ますのがCPA患者の大体20%から30%です。残りは二次救急へ運ばれます。そこでは診断がつかない、なんで死んだのか解らへん、だから正確な国際的な統計がとれないあるいは救命率が上がらないという事にもなるのですね。

 現行の救急医療体制と現実とのギャップを考えてみましょう。疾患救急─今日のテーマは主に心血管系でございますけれども─は初期、二次、三次と分けられるのでしょうか? 今の救急医療体制は救急医、外傷外科の先生方が非常に努力なさってここまで作りあげられてきたものです。外傷は救急隊員でも見たら大体重症度が解るんですね。骨がひん曲がっているとか、頭から血を流していて意識が全くない、とか観察で大体解るんです。そんな場合は最初から三次へ運んだらいい。三次へ行こうか、二次へ行こうか、一次へ行こうかということの判断が救急隊員でも付きやすいものなのです。疾病救急は昔から概ね二次対応と考えられて来ました。そして収容病院の選択に医師の介入はありません。スタンダードな搬入基準というものはどこにもないのです。選択基準が曖昧で、それに加えて各救急病院の医療情報-例えばそこの病院の医療水準、急性期死亡率とか得手な診療科など-の開示が全く無いから、搬入しても重症化したり、専門医がいないというとまた「たらい回し」になる。

 疾病救急、殊に心血管系は患者さんが死んでしまった場合に、発症初期適切に搬送し治療受けておれば助かっていた筈なのかどうかという判断がなかなか難しいんです。病院間転送中のいわゆる「たらい回し」中に急変した場合、誰が責任を取っているのでしょうか。消防署が責任を取った、何億という賠償金を払った、というのは聞いた事がありません。また医療側も日本医師会が何億というお金を払った、というのは聞いた事がありません。患者さんの「泣き寝入り」になっていることがある。そんなアホな社会はないですよ。

 次に、外傷救急と疾病救急の両者に精通する救急医がいるのでしょうか?  三次救急医療施設は厚生省から救急医療の「最後の砦」と言われているんですね。つまり何でもできないとアカンわけです。三次救急の医者はスーパーマンであることを期待されているわけです。しかしそのような医師はどこにもいません。良く考えてみますと、病態が異なり診断に至る思考過程の違う外傷救急と疾病救急の両者を一括に取り扱うシステムに問題があるのではないでしょうか? ウェイスト・バスケットのように一般診療科が取り扱わないどんな分野も救急でと、専門性の低いまま救急でとり扱うことになる。災害救急も、救急医の行う集中治療もそうなってしまう。いずれもこれは「もどき」医になる可能性がある。あるいは中毒にしたって中毒医もどきなんですよね、いまの日本は。疾病救急、殊に心血管の救急医療を外傷救急医、中毒救急医に任せていいのでしょうか? 橋本委員長からもお話がございましたけれども、心血管の救急医療では発症初期に特殊な非常に高度な診療を要するわけです。「最後の砦」ですから三次救急施設には種々雑多な病態の症例がたくさん来る訳です。それに対して的確に対応する事ができるのか? 三次救急医療施設はそれだけのマンパワーを備えているのでしょうか? あるいは各科専門医を直ちにオンコールできる協力体制を院内で整えているのでしょうか、という事を聞きたいのです。それでないなら「最後の砦」として位置付けされている三次救急施設を返上して頂きたい。いや、「最後の砦」と言わなかったらいいわけです。「中間の砦」と言えば良いわけです。

 さて三次救急施設の整備の順番はこれで良いのでしょうか。非日常的な広範囲熱傷、四肢切断、急性中毒などに対する特殊救急医療を目的とした高度と名のつく救命センターは全国に9箇所整備されています。これに対してより日常的で緊急性の高い心血管系救急患者への救急医療システムは未整備なのです。日常的であるこちらがより重要なんだと私は思います。で、三番目は公的な総合病院における救急医療ですが、最近はリストラ、リストラで、できるだけ赤字を作らないという方針ですので、たいてい機能していない。救急医療体制整備に逆行しているんですよ。こういういろいろなギャップがある。

 次に循環器系救急の背景というものを社会的背景と疾患背景に分けて考えてみました。社会的背景では外傷救急患者が多かった時代から変化して疾患救急患者が非常に多くなってきています。おそらく全国三次救急施設でも疾患の方が大体多くなっている筈なんですね。大体6:4位の比で疾患救急患者の方が多くなっている筈です。それに加えて高齢化に伴う心血管系疾患の増加があります。また、日本の産業構造からくる生活習慣病の予備軍の増加の抑制は全く不徹底でしかありません。ジャンクフードをたくさん食べている若い人はいっぱいいますね。あの人たちは将来どうなるのでしょうか。突然死の予備軍をたくさん作っています。また、突然死の疫学研究ならびに死因究明の不備。先進国と言われている日本なのにこういう研究は九州大学による疫学研究ひとつだけしかありません。これも、そのデータが全国的におしなべて普遍的であるものかどうかについては確証がありません。

 次に、疾患背景としましては心血管系疾患は発症初期の死亡率は高いんです。急性心停止の大半は病院前に発生する。専門的治療は発症早期からの方が効果的で、心筋梗塞症にしても早ければ早い程、治療後の生活の質は(quality of life[QOL] )は良いということを良く知って頂きたい。遅ければ遅い程、心機能の回復は遅く心不全を来たしやすいのです。緊急性と不測性がある一方、早期確定診断は困難ですからますます厄介な病気で、専門医が居ないところでは困るんです。不測性つまり予期できないということが非常に困る。今は元気でバイタルサイン─脈拍とか意識とか呼吸─には異常は無い。ただ胸が痛い、お腹が痛い、頭が痛いと言ってるだけなんです。そんな患者さんは二次でいいや、或いは一次でいいやということで見ている内に「あ、息が止まった」ってなるわけです。しかも心筋梗塞症でも急性大動脈解離にしても、早期確定診断は難しいんです。誤診率が高いですね。だから専門医にかからなきゃいけない。

 スライドは、私共の施設のデータでございます。(図2)

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ですから普遍的なものではございませんが、その来院方法は、二次救急病院から来るケース、それから救急隊直送で来るケース、それから開業医あるいは夜間応急診療所から来るケースがございます。救急隊直接搬入は17%しかない。二次救急病院から経由して来るのは70%、発症から来院に要する時間も平均が265分、中央値を取りますと163分位ですね。こうなりますと本当に初期の治療、良い治療をしようと思ってもなかなか出来ない。そういう風なジレンマに立たされているわけでございます。

 先程の二次救急病院の内訳をちょっと申し上げますと、76%は小規模の私的な二次救急病院からの紹介でございまして、公的病院から来るケースは約24%です。この24%のケースはどういう時間帯に私共の病院へ紹介されて来るかというと、準夜・深夜帯に来るケースが62%もあるわけでして、「時間外になったのでもう検査ができなくなりました」「高度な治療のため」というのが、多いんですね。私共の地域であります高槻市・島本町の人口は約40万人で、二百数十ある全病院にアンケート調査をして調べましたところ、人口10万人あたり年間で心筋梗塞症は約40人の粗発症数となりました。そして三島救命、三次救急に来た患者の死亡率は7.4%、地域の二次救急病院で死亡したものは約26%もおります。急性期を大体1週間以内と考えて、病院外心停止例、病院に辿り付く迄に心臓が止まってしまったケースも加えると、心筋梗塞症の急性期死亡率は?先程岩手医大から出されたデータはもう少し高いんですけれども我々は病院外心停止例の大体1/3が心筋梗塞と仮定してデータを出しておりますけれども?35%ということになります。心筋梗塞症はこれ程怖い病気なんです。勿論、頭のくも膜下出血も非常に怖い病気です。

 こういう多くの事例を経験して、「やっぱりどうもおかしい。今の救急システムはどうもおかしい、おかしい」と思い続けて私自身の診療生活でもう10年経ってるんです。最初の5年間は三島救命救急センターを立ち上げるために考える余裕がなかったんですけど、「自分が患者だったら」と思いながら考えて、「やっぱりこういう風にやらないといけないんじゃないか」と思ったことをスライドにしめしました。(図3)

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すべての突発する症例はまず救急基幹病院へ集中(図中のセンター集中方式)させてほしい。集中させる施設はどこかと申しますと、現在の初期施設、二次施設、三次施設という分類枠を使いますと、三次施設になるべきです。ですけど三次施設の先生は馬車馬のごとく働かされたら、多分多くが過労死してしまいます。ですからそこに初期救急を併設して、初期救急の先生がトリアージしてほしい。「この患者はやはり三次へ送っておいた方が良い」あるいは「いや、これは二次でいいやろう」─そういう風にトリアージしてほしい。三次施設だけでは当然、ベッド数が物理的に足りないんです。そうなりますとスケールメリットのある総合病院 が三次機能を担って頂きたい。総合病院 には私的病院も、公立病院もございます。大阪の私的病院でも立派な総合病院がたくさんございます。そういう所に救急部を作って、その救急部を中心に病院が動いてほしいんです。病院が動くと言うのは何も「9時?5時」じゃないんですよ。「9時?9時」なんです。要するに24時間365日、救急部を中心にドクター、コ・メディカル─特にコ・メディカルの組合がある所は潰して頂いて(笑)─24時間365日動いて頂きたい。そのバックには各科の多くの専門医が必ず協力関係を作ってほしい。残念ながら、「救急医療は二流の医療やから、ほっとけや」とかね、そういう様な事を言う医者がまだ沢山いるんです。そういう医者の意識も変えていかなければならない。これには厚生省の力が必要なんです。で、そういう総合病院にも助けて頂いて、基幹病院の中に24時間胸痛外来、意識障害外来、頭痛外来、呼吸困難外来、胸痛外来がオープンしていないといけないわけですね。というより、そのような訴えの患者さんを優先診療する。そしてCCUあるいはSCUを作って頂きたい。それから心臓外科医や脳外科医を必ずこの救急基幹病院、総合病院に別枠で救急専従医として常駐させて頂きたい。これらの病院間どうしで空床状況を連絡しあうための基幹病院、総合病院のネットワークを作る。

 後送病院としての二次救急は特に小規模病院が担っていただければ良いんです。その病院の得手診療科目をもとにカテゴリー化して二次のネットワークを作るのです。小規模病院の中に循環器医が必ず居てほしいんです。夜は居なくっていいんですよ。別にこちら(基幹病院、総合病院)から夜、無理やったら送らなくっても、翌朝に送ったらいいわけですからね。翌朝直ちに引き受ける。それで、基幹病院、総合病院の空床を確保する。小規模病院の経営は成り立っていくわけですし、そこまで考える必要があるわけで、経営が成り立つかどうかも考えてシステムを作らなアカンわけです。そして各ネットワークをどこが統括するかと言うと各地域にあります「救急医療情報センター」です。統括した空床情報を消防も共同で把握したら良い。消防というのは非常に地域が狭いんですね。自分達の管轄区域の情報しか持ってないわけです。だから一緒になってより広域の救急医療に関する情報をもったらいいわけですよ。今はコンピュータが発達してますから簡単に情報を集中管理できます。救急隊員は何をしたらいいかと言うと、病院選択の手間が不要だから選択に時間が掛からない、本来の救急処置に専念することができる。病院に搬送した段階でそのプレホスピタルでの救急処置が本当に良かったかどうかというクオリティーを調べたらいいわけです。心電図を電送すると、病院の先生も「これは心筋梗塞らしいな、来い」と指令ができる。あるいは倒れておれば、医者が同乗して出動することによって現場でのより高度な処置が可能となり、救急隊員を現場で指導、教育できるというシステムができるわけです。このシステムでは医者の卒後救急研修も十分できます。こういうシステムは、何故日本で出来ないのでしょうか。そして普通の二次病院は普段、一般外来・入院患者さんに3分診療ではなく30分診療やってあげたらいいんですよ。突発する救急はそちらへ行かないで、基幹病院や総合病院で治療して落ち着いてから、あるいは最初から安定した症例がそちらへ紹介されて来るんですから。ですからそういう病院の先生や看護婦さんは、入院患者さんや外来患者さんに対してゆっくり手厚く診療サービスや看護ができるというメリットが生じるわけです。

 循環器救急患者に対していかなるプレホスピタルケアや救急医療体制を講じるのが最良か。現行方式と私が述べました救急基幹病院への集中方式のモデル地域を設定して頂いて、科学的な評価を行えばよいと考えます。しかしそれでも現行の方式を継続すると仰るのなら、その根拠を教えて頂きたい。それから集中方式をとることによって予後の改善が期待できるのかどうか。医療資源を有効利用できるのはどちらなのか。このように色々なヒポテーゼを立ててですね、それぞれにおいて科学的な検証ができる土壌が出来れば「日本も論理的思考ができる国家になったな」という風に思えるわけでございます。拙い話を御清聴下さいまして有難うございました。