大阪府三島救急医療センター 072-683-9911

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日本における循環器救急制度について

Heart View 6巻11号2002年より抜粋

森田 大 救命名誉所長

はじめに

 救急患者とは通常の診療時間外の傷病者および緊急的に医療を必要とする傷病者をいい、これらの救急患者に対し、医療を提供する医療機関を救急医療機関という。救急医療は「医」の原点であり、かつ、すべての国民が生命保持の最終的な拠り所としている根元的な医療と位置づけている。そのために、地域住民の必要性を満たすよう充実することと、医療機関に関する情報を広く住民に提供することが、救急医療体制のあり方に対する基本方針として、平成9年12月に旧厚生省から公表された「救急医療体制基本問題検討会報告書」に謳われている1)。理念は立派であるが現実には乖離するところが大きい。本稿では現状の救急医療体制を概説し、多種多様な救急患者の一部である

循環器救急患者が抱える問題点を浮き彫りにしたい。

わが国の救急医療体制

 わが国の救急医療体制は、外傷患者に救急治療に対応すべく昭和39年に創設された救急病院・救急診療所の告示制度に加え、昭和52年からは、初期、二次、三次の救急医療機関ならびに救急医療情報センターからなる救急医療体制の体系的な整備が推進されてきた。また、救急現場ならびに医療機関への搬送途上における、傷病者に対する応急処置を充実する観点から、平成3年には救急救命士制度が運用開始された。少子高齢化、疾病構造の変化、救急ニーズの多様化などの社会環境の変化に基づき、平成10年4月には、従来の告示制度による救急病院と初期、二次、三次救急医療体制が併存して住民や救急隊にとって分かりづらいものとなっていた救急医療体制が改正され、救急医療機関の機能分担による体制として整備された。これを受けて、同年6月1日付で厚生省健康政策局長による「救急病院等を定める省令の一部を改正する省令の施行について」が通達され、『救急医療機関の機能分担については、初期救急医療機関(在宅当番医、休日・夜間急患センター)、第二次救急医療機関(精神科救急を含む24時間体制の救急病院、病院群輪番制病院及び有床診療所)、第三次救急医療機関(救命救急センター)並びに救急医療情報センターを体系的に整備することとするが、原則として第二次救急医療機関は二次医療圏単位で、第三次救急医療機関は概ね人口100万人単位で整備を図るものとする。救急医療情報センターについては、設置の有無、診療情報の入・出力内容及び有効な活用策について記載する。(中略)なお、初期、第二次、第三次救急医療機関の機能区分及び基準等は、次のとおりとする。

 (ア)初期救急医療機関とは、外来診療によって救急患者の医療を担当す
   る医療機関であり、救急医療に携わることを表明する医療機関とする。

 (イ)第二次救急医療機関とは、入院治療を必要とする重症救急患者の
   医療を担当する医療機関とし、次の基準をみたすものとする。

 ①救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に
   従事していること。

 ②エックス線装置、心電計、輸血及び輸液などのための設備、その他救急
   医療を行なうために必要な施設及び設備を有すること。

 ③救急医療を要する傷病者のために優先的に使用される病床または専用
   病床を有すること。

 ④救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬
   入に適した構造設備を有すること。

(ウ)第三次救急医療機関とは、第二次救急医療機関では対応できない複数の診療科領域にわたる重篤な救急患者に対し、高度な医療を総合的に提供する医療機関とし、その要件は次のとおりとする。なお、医療計画において第三次救急医療機関として位置付けられたものを救命救急センターとする。

 ①重篤な救急患者を、常に必ず受け入れることができる診療体制をとる
  こと。

 ②ICU、CCU等を備え、常時重篤な患者に対し高度な治療が可能なこと。

 ③医療従事者(医師、看護婦、救急救命士等)に対し、必要な研修を行な
  う体制を有すること』と記されている。

  救急医療体制と現実とのギャップ

 現在の救急医療体制の基礎は交通事故が多発し始めた時代の外傷外科や集中治療に携わる医師が中心となって作り上げられてきた。そのため救急と言えば外科というイメージが強く、外傷医療や災害医療に特化されすぎてきた嫌いがあった。以後、外傷患者においては事故現場で救急隊員による患者の生命徴候ならびに観察から得られる緊急度や重症度により初期、二次、三次救急医療機関が選定され、最重症と判断された傷病者は三次救急医療機関へ収容されてきた経緯がある。
 外傷患者の重症度判断は救急隊員にとってもおおむね容易であり、まがりなりにも現体制に対応することができた。一方、疾病救急患者は、観察の時点で生命徴候に異常がなければ初期または二次救急医療機関に搬送する旨の了解があるものの標準的搬送基準がなく曖昧で、搬送中に容体が急変しない限り三次救急医療機関への搬送対象にならなかった。
 二次救急医療機関の多くは小規模の民間病院が担当しているものの、診療レベルはまちまちでありなかには三次に匹敵する施設まであるが、その診療情報については一般に開示されていないため、また、なかには病態不明の疾患やとくに心血管系疾患のように急変を予測することが困難な症例があるため、救急隊員にとって病院選択に難渋することが多かった。一旦、搬送しても専門医の不在、病状の悪化、非専門ゆえの診断能力の問題、処置不可能など、何らかの事情で他の医療機関へ再転送になることもあった。この理由は初期、二次、三次という順次高次搬送体制を敷いていることにくわえ、現場での対応の全てを救急隊員に任せていたことや病院情報の得られないことが災いしていたからである。(図A)

 三次救急医療機関は「地域の救急医療の最後の砦」として位置づけられてはいるものの、高度な医療を総合的に提供するために各科の専門医が常時バックアップの役目を果たしているのか、はたまた重篤になった種々の外傷患者ならびに多様な疾病救急患者が入り乱れる救急医療施設で外傷外科医に内科系患者の診断や治療を任せることが許されるのか、あるいは両者への集中治療に精通するスーパーマン的救急医がそもそも存在するのか疑問に思わざるを得ない。本来、重症患者に対する集中治療には各科専門医や専門医レベルまでの知識を持った集中治療医のサポートが必要なのである。救急外来での初期判断と初期治療を担当する救急医が日進月歩発展する各科専門的知識の習得は困難を極める。診療内容が多岐にわたる救急患者の初期治療から集中治療までを一手に三次救急医療施設の救急医に委ねる制度ではマンパワーが得られない限りまっとうな医療はできない。患者側に立てば救急医によって正しい病態把握と適正な初期治療が行われ、時期を失せず専門医(外傷外科医は救急医ではなく一専門医である)による最善の治療に引き継がれることが望ましい。

 さらに、病院外で突然心停止に陥った患者に対して、救急救命士が現場で行なう除細動、末梢静脈路確保、器具を用いての気道確保など救命のための特定3行為は指示受け病院へ連絡をとり医師の指示を受けない限り今の法律では実施できない。これは一刻を争う除細動のタイミングを失うことになり、救急救命士による現場での蘇生努力にもかかわらず、法律が救える傷病者の命を奪う場合もあることを忘れてはならない。また、直近の搬送先病院である二次、あるいは三次救急医療機関で行われる二次救命処置は、国際的に標準化されたアルゴリズムに従ったACLS(advanced cardiovascular life support)が期待されるが、これについても心もとない状況にある。

  循環器救急の特殊性

 循環器疾患の特徴は急激に発症し、放置すると致命的となる内因性疾患であり、その対象となる臓器は脳、心臓、大動脈、肺動脈、末梢動脈である。発症後の初期診断ならびに専門治療の遅れが生命予後あるいは退院後の生活の質に重大な影響をおよぼすため、循環器医を常時救急専従医として抱え、正確な診断と最善の治療ができる集中治療室の整備された病院が担うことが求められている。循環器救急は社会的側面から見れば、1)外傷救急から疾病救急へと患者数がシフトしている。ちなみに、大阪府内の平成12年の救急搬送人員は367,775件、急病は60%、交通事故17%、一般負傷12%であり、疾病救急の割合が高く循環器疾患が17%と最も多くを占めている。2)高齢化社会にむかい循環器疾患が増加している。3)質の高い専門的医療への社会的ニーズの高まり。4)生活習慣病予備軍の増加を抑制できない社会産業構造。5)心停止患者への貧弱な死因究明手段。などの観点から、疾病の特徴から見れば、1)不測性があり、発症時のバイタルサインから重症度の判断は困難である。2)急死例に占める割合が高いcommon diseaseである。3)発症早期の死亡率が高く、その半数は病院到着前に発生する。4)一旦重症化すれば致命的になりやすい。5)早期に専門的治療を要する。6)専門的治療が早期であればあるほど治療効果が高く、退院後の生活の質が良くなる。7)早期の確定診断に難渋する場合がある。などの観点から、救急診療の初期段階から専門医の関与を必要とする。

 病院外で突然の心停止に陥った患者は、倒れるところを目撃され、傍にいた人(bystander)によって即座に心肺蘇生が行なわれ、引き続き心室細動の状態にあるうちに迅速に除細動が実施されて自己心拍の再開が得られた場合に限り、中枢神経系の後遺症を残さずに社会復帰する可能性の高い病態であることを知らなければならない。また、急性心筋梗塞症は発症早期に責任冠動脈の再灌流療法を施すことによってのみ、院内死亡率の低下と慢性期の心機能の維持ならびに良好な運動耐容能が得られることに留意しなければならない。さらに、この恩恵を受けるには、胸痛や背部痛、呼吸困難などの症状を自覚すれば、早期受診あるいはためらうことなく救急車の要請を行い、専門医による適切な治療が早期に開始されれば予後の改善や救命率の向上が図れることを国民的キャンペーンとして啓発してゆく必要性がある。

  一地域における急性心筋梗塞症の実態

 大阪府北部の北摂7市(居住人口168万人)に所在する心筋梗塞症を扱う病院へ内因性心停止例と急性心筋梗塞症(AMI)の受け入れ数、致命率、搬送状況に関するアンケート調査を行なった。病院外心停止患者を含めるとAMIの粗発症数は人口10万人あたり約44人であった。二次救急医療機関へ最終的に収容されたAMIは全体の29%で、そのうち救急隊からの直接搬送が76%と多数を占めた。三次救急医療機関へ最終的に入院したのは全体の71%で、75%は他施設からの転院搬送であった。このことは三次または専門病院へ収容されるのに無駄な時間が費やされていることを意味している。院内死亡率は12%となり、内訳は二次では18%、三次では5%であった。病院外心停止患者を加えた地域におけるAMIの致命率は26%となった。すなわちAMIによる急性期死亡の約半数は病院に辿り着くまでに急性心停止している実態が明らかになった(図4)。

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三島救命救急センターへ搬送されたAMIの発症からセンター到着までの経路と時間を見ると、二次救急医療機関経由は全体の70%を占め、所要時間が中央値で163分、救急隊直接搬送は全体の17%を占め、所要時間が中央値で49分を要し、二次経由の場合には約3倍の時間を費やしていた(図2)。このことは適切な早期治療の遅れに加え、心停止発生時の救命処置手薄を意味する。医師が救急現場に出向かない現救急医療体制下では、救急隊員に患者の症状からいかに正確に虚血性心疾患を判断し、適切な病院を選定する方法を教育したり、リアルタイムに利用できる空床情報ネットワーク整備により迅速な受け入れ体制を構築しない限り国民の健康は守れない。また、かりに救急隊員の判断が間違っていたとしても、決して叱責したりしない寛容な態度が搬送先医療機関の救急医に必要なのである。

   病院に辿り着けない患者の救命率

 AMIは突然発症しても、早期に適切な病院に入院できればその予後は著しく改善され、急性期の院内死亡率は5%程度までに減少している。しかし、病院に辿り着けない患者を含めると前項で述べたように急性期死亡率は依然として高い。筆者の勤めるセンターでは地域で発生した病院外心停止の90%以上を収容し、可能な限り原因検索を行なっている。1996年から3年間に経験した内因性心停止419人の原因疾患を図5に示した。

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心筋梗塞症であると確定できたのは21%、不明を含め推定心原性は57%を占め、全体として心臓由来の急性心停止の割合が高い。

 厚生労働省は平成13年から5年間に心筋梗塞・脳卒中の死亡率を25%逓減させるためのメディカルフロンティア戦略を掲げた。これを達成するには、現救急医療体制を見直し、早期治療開始と病院到着前の死亡率を下げることがもっとも有効な手段になるはずである。その目的のために地域で発生した病院外心停止の救命率を検証した。ウツタイン様式に準じて1998年5月から2000年4月までの2年間に大阪府下で発生した病院外心停止の前向き疫学調査を行った。蘇生対象例は9801人であった。原因が推定を含む心原性で、倒れるところを目撃されたのは1994人、このうち救急隊員が現場へ到着したときに心静止であったものは1236人(62.1%)、心室細動は344人(17.2%)、無脈性電気活動を含むその他は414人(20.7%)であった。1994人のうち1年生存は57人(2.9%)となった。(図6)

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この程度の救命率では胸部不快感を訴える患者が救急車を利用せずに受診しようとして、病院到着までに突然心停止した場合には救命はほぼ不可能と考えて良い。救急隊員が心電図モニターを装着した時点で心室細動であった傷病者は、心原性の50歳台から70歳台の男性に多く認められた。(図7)

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この年齢層は社会的生産人口として重要な立場にあるために、重点的に救命する意義は高い。

   病院外心停止と救急活動の評価

 心室細動に対して除細動が唯一有効な救命手段であり、目撃された心原性心停止のうち心室細動例は最も救命しやすく、首尾よく行けば完全社会復帰のチャンスが生じる。地域の救急医療体制の成熟度をみるには、救急救命士に与えられた特定3行為の実施率ではなく心停止からの救命処置実施時間を測定しなければならない。

 前述の心室細動344人に対するchain of survivalに要する時間経過を患者の累積曲線として図8に示した。

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除細動は心停止してから中央値で17分を要している。除細動が1分遅れるごとに、救命の可能性が7?10%低下すると言われており、救命効果の得られない事実が明らかになった。従来からの心停止後4分以内の心肺蘇生、8分以内の除細動に照らせば、心肺蘇生は35%の患者に、除細動は5%の患者に実施されているにすぎない。欧米諸国では、社会復帰する病院外心停止患者を増加させることを意図して迅速な除細動の重要性に鑑み、病院外での除細動実施は倒れるのを目撃してから5分以内と規定し、救急隊員が現場に到着するまでに一般市民により自動体外式除細動器を用いて除細動させる救急医療体制作りが進んでいる。わが国と違い、基本的社会基盤整備のテンポは早い。

   適正な循環器救急診療のために

 わが国では医療界においてさえも救急医療の重要性は十分に理解されているとは言い難い。ましてや、救急医療体制の仕組みや問題点が国民に周知されていない現状では、搬送先病院で急変しても、「運が悪かった」「仕方がなかった」と悔恨や諦めの感情が支配していたと言っても過言ではない。このような風潮の中で徐々にではあるが、患者権利意識の向上とともに現状の救急医療体制に疑問を抱く方が増え、マスコミに訴える機会が増えてきていることは喜ばしいことである。少なくとも医療従事者は、救急患者は自ら救急医療機関を選ぶことができないということを肝に銘ずるべきである。

 先に述べてきたように、外傷患者を中心に発展してきた現救急医療体制の中に循環器救急患者をはめ込もうとする矛盾点が露呈しているのは明らかである。救急の本来のあり方を検討した上で、救急医療体制の再構築に向け努力すべきと考える。体制作りの基本は、市民の意識づけに加え、一つ目は医師が救急現場へ出向くことであり、二つ目は救急患者を地域の救急基幹病院へ集中させ、救急医が重症度や緊急度をもとに初期治療後に専門医に引き継ぐか、医療内容の開示された二次救急医療機関へ転送するか判断できる形態を採るよう改革してゆくことである。

  まとめ

 循環器救急で扱う疾患の多くは、急性発症するcommon diseaseであり、早期に適正な治療をすれば良好な予後が期待できる反面、一見軽症に見えても突然致命的な病態に陥るのが特徴である。発症後適切な救急医療機関に入院できた場合には、専門治療や集中治療の進歩により院内死亡率は極めて低い。しかし、地域全体でみれば循環器救急患者の致命率は依然として高いままである。循環器救急診療が現行の救急医療体制に適正に組み込まれておらず、救急医療機関の初期、二次、三次機能別分類や順次の高次搬送が循環器救急診療の足枷になっている。今まさに、病院外突然死を減少させ、早期受診、早期治療可能な救急医療体制の再構築にむけ、循環器医と救急医が共同作業に入る時期にきている。

  図表の説明

  図A 現行の救急医療体制における救急患者搬送の問題点

 救急病院は初期、二次、三次救急医療機関として機能別分類され、基本的には順次に高次の救急病院へ搬送する体制になっている。救急隊員は現場で搬送先病院を選択しなければならないが、おおむね生命徴候が不安定な場合は三次へ、安定は二次へと決められているものの、わが国には標準となる搬送基準はなく、病院の医療情報も開示されていないので、いきおい経験に頼らざるを得ない。二次へ搬送しても専門医が不在、担当医が非専門で診断能力に問題があったり、治療していたが重症化したり、検査が不可能な状態であったりして、三次へ転送することがある。そこでは満床であったり、あるいは三次の対象外だとして他の救急医療機関をあたるように言われ、最終受け入れまで時間を浪費することもある。また、医師からなぜこんな患者を運んできたのかと叱責されることがある。病院外心停止に陥った患者では、救急救命士制度ができたにもかかわらず、院外で除細動を実施したり、末梢静脈路を確保したり、器具を用いての気道確保などの特定3行為は医師の指示を待たなければ実施できない。医師の指示を待っている間に、除細動のタイミングを失ってしまう。突然死の原因究明のための施設も十分整備されておらず、救急患者の全国的な傷病登録システムもない体制である。

   図2 急性心筋梗塞症患者の搬送経路と所要時間

  初回発症24時間以内に搬送された460名の搬送経路と所要時間を見ると、

 救急隊員の判断による直接搬送は全体の17%を占め、発症から来院までの所要時間は中央値で49分であった。残り83%は初期ならびに二次救急医療機関からの転院搬送で、所要時間はそれぞれ166分ならびに163分を要していた。患者が医療機関を受診する決断時間を含めての所要時間であるが、他院経由の場合には早期治療の遅れにつながる。救急医は救急隊員に対し、患者の症状から病院選定に迷ったら三次救急医療機関もしくは専門病院へ直接搬送するように指導し、オーバートリアージを決して叱責したり批難してはいけない。

   図3 救急医療体制のモデル

 突然に発症する救急症例に限り、総合病院救急部または初期と三次が併設する救急基幹病院へ集中させる。初期救急病院には24時間運用する頭痛外来、胸痛外来、腹痛外来、外傷外来などを設置し、レジデントより上級医が診療担当する。基幹病院の救急医が外来でトリアージし、初期治療を行ったうえで安定している症例を二次救急病院へ転院搬送する。二次救急病院は日頃の通院患者の診療や入院患者の処置に忙殺しているため院外の救急患者の受け入れはしない。

   図4 大阪府北部7市における急性心筋梗塞症の致命率

 1998年大阪府北部7市に所在する急性心筋梗塞を扱う病院ならびに診療所へのアンケート調査の結果、入院した624人の急性心筋梗塞症患者の致命率は12%であった。病院外心停止患者を加えると26%となり、半数の患者が病院に辿り着くまでに急性心停止を起こしていた。

   AMI:急性心筋梗塞症、CPA:病院外心停止

   図5 内因性心停止の原因分類

 1996年から3年間に419人の内因性院外心停止患者が三島救命救急センターへ搬送された。その原因検索の結果、21%の患者に急性心筋梗塞症の確定診断がつけられ単独疾患としてはトップであった。推定を含む心原性は内因性心停止患者の57%を占めた。ちなみに、1995年以前と比べると呼吸器疾患が減少し、大動脈疾患が増加している。

   図6 一般市民により倒れるところを目撃された心原性心停止患者の転帰

 ウツタイン様式に従い前向きコホート研究を行った結果、1998年5月から2年間に大阪府下で発生し蘇生対象となった病院外心停止患者数は9801人で、心原性を原因とするのはそのうち6054人であった。昏倒時目撃されたのは1994人(32.9%)、現場で心電図モニターを装着した時点で、心室細動を呈するものは344人(17.2%)であった。1994人のうち1年生存したのは57人(2.9%)であった。この結果はニューヨークなどの大都会の成績と差はないが、胸部不快感を自覚し、救急車を利用しないで受診しようとして、病院到着までに心停止を起こした場合には救命はほぼ不可能であることを教えてくれている。

   図7 病院外心停止患者のうち心室細動例の内訳

 1998年5月から2年間に発生した蘇生対象の病院外心停止9801人のうち心室細動例は心原性344人、非心原性31人であった。心原性では50歳代から70歳代の男性に多く、社会的生産人口として重要な立場にある患者とおもわれた。この年齢層に対して重点的に救命率を上げなければならない。病院外での除細動実施の遅れは、まさにとどめを刺す以外のなにものでもない。

   図8 病院外心停止例に対するchain of survivalに要する時間

 昏倒時一般市民に目撃された心原性心停止のうち、心室細動を呈する患者344人を対象に、心停止から119番通報、一般市民による心肺蘇生の開始、現場に到着した救急隊員による除細動実施、器具を用いての気道確保実施までの時間をそれぞれ患者の累積曲線として表した。病院到着後の二次救命処置は累積曲線として示していないが、さらに遅くなる。

 患者の累積曲線を用いて救急活動の評価をする場合、それぞれの曲線が左方移動すればするほど、その地域の一般市民の心肺蘇生に対する意識も高く、救急医療体制は高度に整備されているといえる。大阪府下の成績では、心停止後5分以内に除細動が実施されたのは数%程度であった。

   縦軸は患者の累積割合(%)、横軸は経過時間(分)

   ×:心停止から119番通報までの時間

   △:心停止からbystanderによる心肺蘇生開始までの時間

   ▽:心停止から器具を用いた気道確保までの時間

   ▲:心停止から除細動までの時間